企業としての生き残りはない、と頭ではわかっていても、従来のやり方とはあまりに違いすぎるだけに、拒否反応が起きるのは仕モデルラインをつくらず、マニュアルだけで説得して導入を図ろうとすると、現場は混乱をきたすだけだ。
結局は効果があがらず、もとの手法に戻っていく。 T生産方式の導入が、本をいくら読んでコンサルティングをするどの企業でも必ず試みるのは、実際にモデルラインをつくって、そこで新しいモノづくりをためしたうえで、そのノウハウを他の生産ラインへと水平展開する。
このとき、従来のやり方はそのまま続けてもらい、一方でモデルラインでこれから導入しようとするつくり方も実践してく。 一気にはできない経営者によっては、そんなまどろっこしいことをしないで、一気に新方式に切り替えたいという思いもあるかもしれない。
実際にトップダウンでできないわけではない。 しかし、Tの場合も、T生産方式がある程度の形になるまでには、何十年もの歳月がかかっている。
ひとりの熟練工が一台の機械を担当して仕事をしていた体制から、種類の異なる機械を二台持って仕事をする、いわゆる多能工に変えていく場合、慣れない仕事に対する抵抗感ももちろんある。 同時に機械の調整が複雑すぎると、結局は熟練工以外には扱えず、現実に多能工を育てるには相当の訓練を要する。
これをクリアしていくには、作業者の訓練の一方で、機械そのものをさほど熟練していない人間でも使えるように改善していく工夫も必要になる。 O氏は、現場の作業は素人でもやれるようにしないといけない、と言っていた。
新しい生産方式を持ち込むにあたっては、組織風土や企業環境を無視して、そのまま導入するのはまず無理なのだ。 まずはモデルラインを動かして、さまざまな解決すべき問題をはっきりさせていくという過程が欠かせない。
そうすれば、どんな改善が必要かもわかってくるし、次にどういう方向に進めていけばよいのかもはっきり見えてくる。 この問題の顕在化というテーマが、いかに困難でも、最も重要である。
すべてを無視して一気にやってしまうと、肝心の問題が表面化しないままに計画だけが進んでしまう。 実践でうまくいかないのは、このモデルラインによる、改善や結果による説得ができないのも一因だ。
言われた仕事をただ黙々とこなす。 それに対して、日々の改善によって、着実に「コストダウン」や「納期短縮」ができ、企業としての「競争力」が高まっていくのを実感できるのとでは、どちらが人としてやりがいがあるか。
はっきりしている。 ここにもT生産方式の「人間性尊重」の理念が賞かれ「改善」への挑戦中堅メーカーの改善推進プロジェクトから全社的な切り替えによって、また新たな問題も出てくるが、それには全員参加の現場改善を続けていけばいいだけだ。

改善の積み重ねで、確実に生産方式はよりよいものになっていく。 何より改善の意欲に燃えた「人の集団」という財産が生まれる。
モデルラインにより、かなり「自社にマッチした生産システム」になってきたと実感できたなら、いよいよそのノウハウを水平展開する。 従来の生産方式から、本格的に新しい生産方式に変えていく。
そこに至るまでにすでに多くの改善を試みている。 他の社員も目で見ている。
導入は比較的スムーズに進行する。 モデルラインを実際に動かせば、その企業に合った改善が進むだけではない。
何より従来のやり方をしている人にとって、「何が変わっていくのか」が、はっきりと見て取れる効果が大きい。 同時にモデルラインを担当しているメンバーにとっては、問題が次々と見えてくる。

そうすれば、日々改善に追われる状況が生まれる。 自分自身の手で現場改善の実践にたずさわれば、得るものも実に大きいものがある。
二本の柱水平展開までのステップをきちんと守ってくれば、その企業にマッチした生産システムがある程度見えてこよう。 次はいよいよ全体の生産体制をいかに再構築していくかという段階に入る。
最終的にどのような生産体制が理想かは次節で触れたい。 その前に「自働化」を例に、ステップを踏みながら、改革を進めていく重要性に触れておこう。
T生産方式を導入したいという相談を受けたときには、必ずトップ自らによる、導入している企業の生産ライン見学を勧めている。 さすがにTの工場となると規模が違いすぎるので、従業員一○○名くらいの企業にお願いをして、見学させてもらう。
この生産ラインを真剣に観察さえすれば、何をやるべきかがわかるようになっている。 T生産方式というと、どうしても「かんばん方式」というイメージが強い。
「かんばん方式」は実際には一つの手法に過ぎず、「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」こそが、二本の柱である。 工場の見学に際しては、この「自働化」とは何なのかを理解してもらいたいと考えている。
特に新旧を問わず、工場に置かれている機械には、すべて何らかの改善が施してある点が重要だ。 改善推進プロジェクトから機械に何か異常があればすぐに止めるという工夫は、きわめて重要である。
正常に機械が動いているときは、そばに人がついている必要はなく、何かあって止まったときにだけ、人はそこに行けばよい。 これによりひとりで複数の機械の担当が可能になる。

さらに大切なのは、異常があったときに、機械が自動的に止まるから、「何が問題なのか」をきちんとチェックする必要が生じる。 そこで初めて改善がるわけだ。
「自働化」は、「自動化」ではなく、「ニンベンのついた自働化」である。 T氏の自働織機以来のTの伝統的な考え方だ。
ただスイッチさえ押せば動く「自動化」では、何か異常が起きたとしても、機械は止まることなく動き、不良品の山を築く。 それを機械自身に善し悪しの判断をさせれば、すぐに機械が止まる。
不良品の山も防げるし、機械の故障もチェックできる。 Tにおいては、ほとんどの機械設備にこうした工夫をこらしている。
これを称して機械に人間の知恵をつけた「ニンベンのついたT生産方式においては、人手による生産ラインでも、何かあればすぐにラインを止めるのは同じ考え方からだ。 異常が起きたときももちろんだし、作業の遅延が起きたときも止める。
これはすべて「問題を顕在化させる」ためだ。 とかく機械にしろ、ラインにしろ、多少のトラブルは目をつぶって、なるべくスムーズに進めようと考えるのが人間だが、逆である。
どんな小さな異常でも、隠していては決して改善などできはしない。 自働化導入別のステップ企業が自働化を進めていきたいと考えたときに、単に「これが完成品です」と持ってくるやり方には反対だ。
時間はかかるが、一つ一つのステップを踏みながら、導入していくやり方が最も理解しやすいし、人も育つと考えているからだ。 自働化の前提は「安全確保」にある。
災害が絶対に起こらない仕組みをつくり、異常が起きれば、安全装置が働いて、全停止となる。 それが大前提だ。

同様に「職場の整理・整頓」を進めていくための「5S活動」も進めていく。 整理・整頓は改善の基本である。
不要なものには「赤札」を、不要かどうか決められないものには「黄札」を貼って、赤はすぐに撤去していく。 これを繰り返すと、赤が減って、整理・整頓がいきとどいた生産現場になる。


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